蕎麦と水の関係
―十割そば・水温・水質・加水率で変わる麺打ちの科学
「十割そばが、どうしても切れてしまいます」
「水は何%くらい入れればいいのでしょうか?」
「冷水とぬるま湯、どちらで打つのが正解ですか?」
そば打ちに挑戦されているお客様から、
水に関するお問い合わせを、日々多くいただきます。
同じそば粉を使っているのに、
昨日はうまくまとまったのに、
今日は切れてしまう。
そんな経験をされた方も、多いのではないでしょうか。
実はその原因の多くが、
水温・加水率・水質といった
「水の扱い方」にあります。
蕎麦を打つのに慣れてくると、
次に疑問を持つのが、やはり水です。
どんな水を、
どれくらい、
どのタイミングで加えるのか。
その違いが、生地のまとまりや切れやすさを
大きく左右します。
そこで今回は、
そばの実研究所のKONA博士に聞いてみました。
- 十割そばは、なぜ切れやすいのか
- 加水率に“正解”はあるのか
- 冷水とぬるま湯、どちらが向いているのか
そば打ち初心者の方にもわかるように、
伝統と科学の両面から、
蕎麦と水の関係をひも解いていきます。
KONA博士KONA博士のひとこと
そば打ちは、水をどう入れるかで決まる。
どのタイミングで、どれくらいの水を加えるか。
それだけで、生地のまとまりも、切れやすさも変わるのじゃ。
蕎麦と水の関係について Q&A
Q1. そば粉と小麦粉、「つながり方」は何が違う?



そば粉と小麦粉では、なぜこんなに性質や扱い方が違うのでしょうか?



小麦粉は、水を加えると
グルテニンとグリアジンというタンパク質が絡み合い、
強いグルテンを形成する。
これが、
パンが膨らみ、
うどんにコシが出る理由じゃ。
一方、そば粉には、
小麦のような強いグルテンがない。
そば粉がまとまる理由は、主に次の3つじゃ。
外皮に含まれる、わずかなタンパク質と水の結びつき
でんぷんが水を抱え込む力(糊化直前の粘着性)
粉粒子どうしが引っかかる、物理的な支え合い
だから、そば打ちは難しい。
しかし――
難しいからこそ、工夫の余地があり、面白いのじゃ。
Q2. 十割そばは、熱湯で打つものなの?



十割そばは、熱湯で打つと聞いたことがあります。



昔は、そうじゃった。
熱湯打ちは、
そば粉のでんぷんを一気に糊化させ、
無理に粘りを引き出す方法じゃ。
寒冷地や田舎そばの文化では、
今もこの技法が受け継がれておる。
香りが飛びやすいと言われることもあるが、
一概には言えん。
蕎麦がきは熱湯でかくが、香りはしっかりある。
水で打ったそばも、最終的には熱湯で茹でるからの。
ただし注意点もある。
お湯を少しずつ加えるのは難しく、
生地が熱いため、硬さを感じ取りにくい。
やけどにも気をつけねばならん。
加水作業は一発勝負。
扱うには、ある程度の経験が必要になる。
Q3. 水で打つそばと、熱湯打ちの違いは?



では、水で打つそばはどう違うのでしょうか?



江戸時代に広まったのが、
冷水打ち(水回し)じゃ。
冷たい水で、少しずつ粉をつなぐことで、
そばの香りを生かし、
喉ごしの良い蕎麦が生まれた。
これが江戸の町人文化と結びつき、
現代につながる「そば切り」の主流になった。
今の主流は冷水打ち。
しかし熱湯打ちも、
消えてよい技ではない。
どちらも、日本のそば文化を支えてきた大切な方法なのじゃ。
Q4. 十割そばの加水率は、どのくらいが目安?



十割そばの水加減は、どれくらいが目安でしょうか?



十割そばの加水率は、
二八そばよりも、やや水を多めに使うのが基本じゃ。
さらに言えば、
そば粉の挽き方によって大きく変わる。
石臼で挽いたそば粉は、
粒がやや粗く、表面積が広い。
そのため水をよく吸い、
加水率は 50%前後 になることが多い。
香りは高いが、水が入りすぎると一気に扱いづらくなる。
一方、ロール挽きのそば粉は粒が細かく、
水を弾きやすい性質を持つ。
こちらは 42%前後 が目安で、
生地が比較的安定しやすい。
ただし――
これらの数字は、あくまで基準。出発点じゃ。
・水は一度に入れず、まずは少なめに。
・粉の表情を見ながら、少しずつ足していく。
毎日打っていて、
打ち慣れた粉であれば、
加水量の9割ほどを一気に入れる
「一気加水」という方法もある。
しかし、初めて扱う粉は、
プロでも加水量が読めない。
それは緊張の一瞬じゃ。
加水率は決めるものではなく、探るもの。
これが、十割そばと向き合う基本姿勢じゃ。
Q5. そば打ちに使う水質は?



そば打ちには、硬水と軟水、どちらが適しているのでしょうか?



一言で言えば、どちらも正解じゃ。
ただし、仕上がりの性格は少し変わる。
一般に和食では、軟水が向いていると言われる。
旨味や香りを、素直に引き出しやすいからじゃ。
軟水で打つと、
そばの香りが立ち、
口当たりのやさしい麺になりやすい。
一方、硬水はミネラル分が多く、
生地に張りが出る。
やや噛みごたえのある、力強い麺になる傾向がある。
ただし、忘れてはいけないことがある。
水質は、土地の味そのものということじゃ。
そばの実研究所のある
長野県小諸市の水は、
浅間山の火山地帯を通る超硬水。
この水で打たれた蕎麦は、
古くから中山道を行き交う旅人の腹と心を満たしてきた。
硬水だから悪い、
軟水だから良い、
という話ではない。
その土地の水で、その土地のそばが生まれる。
それが、蕎麦文化というものじゃ。
Q6. 海外の粉文化と比べると?



海外の粉文化と比べると、そばはどうでしょうか?



世界を見渡すと、粉文化は実に多彩じゃ。
中国の拉麺は、
強いグルテンを使い、伸ばし、ねじり、引き延ばす。
イタリアのパスタは、
デュラム小麦の芯の強さで、
熱湯にも負けぬコシを作る。
粉ではないが、
ロシアや欧州では、
そばは実のまま、炒めたり煮たりして食されておる。
そして、日本のそばは――
グルテンに頼らず、水とでんぷん、そして人の技で成立する麺。
世界的に見ても、
そばを麺にして食べる文化は、かなり珍しい存在じゃ。
KONA博士のまとめ
そば打ちは、力仕事ではない。
水を読む仕事じゃ。
・ 小麦粉はグルテンが粘りの源。最適水温は20〜25℃
・ そば粉は、でんぷん+外皮タンパク質+粒子性でまとまる。水温は15〜25℃
・ 加水率は挽き方で変わる。石臼挽きは多め、ロール挽きは控えめ
・ 水質は土地の個性。硬水も軟水も、どちらも正解
・ 日本のそばは「水で立つ麺文化」。世界でも稀有な存在
そば打ちには、失敗もある。
切れてしまった経験は、
次のそば打ちに必ず生きてくる。
先生じゃな。
粉と水がどう変わるのか。
ぜひ一度、自分の手で確かめてほしい。








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