第2工程 ― 寒風が仕上げる寒ざらしそば
寒ざらしそばは、大きく分けて二つの工程から成り立っています。
第1工程:冷水に晒す工程
第2工程:寒風に晒して乾燥させる工程
前回触れたのが第1工程。
そして今回お話しするのが、第2工程です。
冷水にじっくりと晒した玄そばは、それで完成ではありません。
水から引き上げたあと、寒風と天日による乾燥を経て、
はじめて寒ざらしそばになります。
水を含んだ玄そばの重み
メッシュの袋に入れた玄そばは、もともと22.5kg。
第1工程で水に晒したあと、引き上げたときには30kgを超えています。
約8kg近く水を含んでいる計算になります。
持ち上げると、ずっしりと重い。
第1工程が確かに作用していることを、体で感じる瞬間です。
この水分を、第2工程でゆっくりと整えていきます。
気温マイナス10度の第2工程
乾燥の日。
気温はマイナス10度。
浅間山から吹き下ろしてくる風は、
凍えるように冷たく、頬を刺します。
大型のビニールハウスにビニールシートを広げ、
第1工程を終えた玄そば約500kgを、一面に広げていきます。
ビニールハウスの天井は、雪や雨をしのぎながら、
日中は太陽の光を届けてくれます。
そして、ハウスの下部の窓はすべて全開。
冷たい外気が通り抜けるようにしてあります。
外は氷点下。
中にはやわらかな光と抜ける風。
この環境が、第2工程には理想的です。
薄く、広く
乾燥は、想像以上に繊細で重労働です。
玄そばを厚く積むと、
風が通らず、水分が抜けきりません。
だから、薄く、広く。
一粒一粒ができるだけ均一に風に触れるように広げます。
それでも、上と下では乾燥の進み具合が違ってきます。
表面は乾きやすく、下の層は水分が残りやすい。
そのままにすると、
乾燥できた粒と、できていない粒が混ざってしまいます。
朝夕二回、天地を返す
そこで私たちは、第2工程の間、
朝と夕方の1日2回、玄そばをかき混ぜ、天地を逆さにします。
スコップを使って上下をひっくり返し、混ぜ合わせる。
その後、トンボ(校庭を平らにする道具)で全体をならします。
そして仕上げに、表面にゆるやかな凹凸をつけます。
凹凸をつけることで風の当たる表面積が増え、
乾燥がより均一に進みます。
500kgの玄そばを相手にする作業は、
決して軽くはありません。
それでも続けます。
お客様に、最高の寒ざらしそばを味わってほしい。
その思いを込めて、手を動かします。
乾燥の精度が、粉の精度になる
乾燥不足の粒は、うまく割れません。
黒殻側にそばの実が残りやすくなり、
結果として製粉歩留まりが下がってしまいます。
さらに、水分が揃っていない粉は、
そば打ちの際の加水量がぶれてしまい、
安定した生地になりません。
第2工程の精度は、そのまま寒ざらしそばの品質につながります。
二十年以上積み重ねてきた寒ざらしそば
この乾燥工程の価値は、
なかなか伝わりにくいかもしれません。
けれど私たちは、
二十年以上、寒ざらしそばを仕込み続けてきました。
毎年、同じ寒さはありません。
同じ風もありません。
気温、湿度、風の抜け方。
その年ごとの条件を読みながら、
仕込みを重ねてきました。
厳しい環境の中での、決して楽ではない作業です。
それでも続けているのは、理由があります。
そば打ち愛好家の方から、
「今年もおいしく打てました」と言っていただけること。
提供したそばが、
「おいしい」と褒めてもらえたという声を聞けること。
その言葉が、何よりの励みになります。
江戸から始まった寒ざらしそばの伝統を、
いまの時代に合わせながら、技術として伝えていく。
その先に、誰かの「おいしい」があると思うから、
私たちは続けています。
水と風、二つで一つ
寒ざらしそばは、
第1工程の冷水だけでも、
第2工程の寒風だけでも成立しません。
水で整え、
風で締める。
この二段階がそろって、
寒ざらしそばは完成します。
次回へ
第1工程で整えられ、
第2工程で締められた玄そば。
その中では、静かな変化が起きています。
なぜ寒ざらしそばは甘く感じるのか。
なぜ後味が澄んでいるのか。
次回は、
寒さが引き出す、そばの甘みと力について、
もう一歩踏み込んでお話しします。
執筆:大西製粉 社長 大西 響

[2026年2月発売] 寒ざらしそば粉 2025 [1kg/500g]
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